大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2894号 判決

一、まず被控訴人東京高等裁判所に関する控訴について考える。

控訴人の同被控訴人に対する本訴請求は要するに行政庁としての同被控訴人を相手方として、東京高等裁判所民事事件受付係職員が控訴人に対し控訴人が同受付に提出した反訴状に二、〇〇〇円の印紙を加貼させたことの違法を理由として、その違法の確認を求めると共に右加貼印紙二、〇〇〇円につきこれの未使用であることを証明した上そのように証明された印紙二、〇〇〇円の返還を求めるというにある。

ところで、裁判所の事件受付事務担当書記官は訴状等が裁判所の事件受付に提出されると訴状等の記載自体から判断しうべき形式的記載事項のほかそれの貼用印紙の加不足について調査点検し、欠点を発見したときは提出当事者に対しその欠点を指摘して任意補正を促すべき職責を有し、また、訴状等に貼用された不要もしくは過貼印紙が誤つて消印されたことが明らかな場合にはこれの未使用証明をした上これを返還すべきであるが、これらの訴状等の調査点検が事件受付に際し訴状等を整備明確化させ、もつて当事者に対し無用な時間、労力の費消、経費の負担等をかけないことと、あわせて受付後における事件の審理促進、能率化をはかることを目的とし、訴状の適否について正式の審査権を有する受訴裁判所の裁判長または受訴裁判所の補助としてなされるものであることは民事訴訟法の規定からみて明らかなところである。

すなわち、訴状等に適式な印紙を貼用すべきことは訴提起の適法要件であつて、訴状にいくらの印紙を貼用すべきか、貼用された印紙に過不足があるか等の問題は結局はその訴の審理を担当する受訴裁判所または受訴裁判所の裁判長の判定すべき問題であり、従つてたとえば受付事務担当書記官が訴状受付の際貼用印紙の不足を理由に加貼を促したためこれに応じて印紙を加貼した場合にも、もしそれが訴状に貼用すべき法定の印紙額を超えるものとして不服であるときは、受訴裁判所所属の書記官に加貼印紙未使用の証明及びその返還を求め得るものと解すべきであつて、この場合当該書記官は、受訴裁判所または裁判長の意見に従つて善処すべきであるが、もし、印紙の未使用証明およびその返還を拒絶された場合、これにつき不服のあるものは、その書記官の所属する受訴裁判所に異議を申立てることができ(民訴二〇六条)、その申立を却下する決定に対しては通常抗告ができる。また、訴状の印紙の追貼を命ずる裁判所または裁判長の補正命令に不服なものはその命令に応じない場合に発せられるであろう訴状却下の裁判に対し即時抗告ができる(民訴二二八条)のである。

右のことから分るように、訴状等に貼付すべき印紙の額についての問題は個々の具体的事件につきその事件の受訴裁判所または裁判長が司法権の作用として民事訴訟に関する法令の枠内で決めるべき問題であつて、行政庁としての裁判所がなしうべきことがらではない。

従つて、右の問題に関する東京高等裁判所事件受付係職員の印紙を加貼させた行為を行政庁の処分であるとして行政処分の司法審査を目的とし、行政庁としての被控訴人東京高等裁判所との間で右問題の解決を求めようとする本訴請求は、この点においてすでに不適法であり、この欠缺は補正することができないものであると解される。

二、次に被控訴人国に関する控訴について考えるに、控訴人と同被控訴人との間で原審の判決がなされていないことは本件記録上明らかであるから、同被控訴人を相手方とする本件控訴は不適法であり、この欠缺は補正することができないものであることが明白である。(なお、念のためいえば、控訴人は原審において判決言渡期日が告知されて後、「訴状の訂正申立書」を提出し、「仮りに被控訴人東京高等裁判所に対する請求が容れられないときは、被控訴人国は控訴人に対し金九、〇〇〇円を支払え」との請求を、被控訴人東京高等裁判所に対する本来の請求に追加したい旨申し立てていることが分るが、この追加申立にかかる請求は原審における被控訴人東京高等裁判所に対する本来の請求に対し、主観的に予備的な関係にたつ請求すなわち、これは被控訴人国を予備的被告とする請求であることがその請求自体明らかであるから、控訴人の原審における右の請求の追加の申立は本来不適法なものであつて許されるべきものではない。)

(谷本 野本 海老塚)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!